高松高等裁判所 昭和26年(ナ)6号 判決
原告 武内正明
被告 愛媛県選挙管理委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は原告が提起した訴願に対し、被告愛媛県選挙管理委員会が昭和二十六年九月十二日為した訴願棄却の裁決を取消す。昭和二十六年四月二十三日執行された愛媛県北宇和郡北灘村議会議員の選挙はこれを無効とする。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として昭和二十六年四月二十三日執行の愛媛県北宇和郡北灘村議会議員の選挙にあたり、
第一、投票管理者は
(一) 選挙権のない宮本イシ、松下厳、小笠原美代子に投票を許して投票せしめ、
(二) 選挙権のある赤松伝蔵、赤松キクエ、扇野ミチエの投票を拒否し、
(三) 選挙人川中友市同国安ヨリのために国安登をして代理投票を為さしめたが、公職選挙法施行令第三十九条所定の補助者の立会なしにこれを為さしめ、
第二、住本候補の選挙運動員山口肇は選挙人約三十名を連行して第一投票所に立入り右選挙人等に対し投票上の指図を為し、投票記載の場所に近寄り投票記載を監視し、以て選挙人の投票に対する自由意思に圧迫を加え投票管理者は右のような山口肇の不法な行為を制止せず放任し選挙の自由公正を破壊し
第三、下谷候補の選挙運動員三好喜久松は第二投票所において選挙人約七十名に対し投票上の指図を為し、投票記載場所に近寄り投票記載を監視し、且つ、その記載した投載用紙を点検する等して以て前同様選挙人の投票に対する自由意思に圧迫を加え、投票管理者は右のような三好喜久松の不法な行為を制止せず放任し、よつて選挙の自由公正を破壊し
たのであつて、右の事実はいずれも選挙の規定に違反し選挙の結果に異動を及ぼすものであつて、選挙の無効をきたす事由である。よつて訴外猪熊豊は昭和二十六年五月七日北灘村選挙管理委員会に対し異議の申立をしたところ、同委員会は同年六月四日これを棄却したので原告はさらに同年六月八日被告に対し訴願を提起したが、同委員会は同年九月二十二日訴願棄却の裁決をし同年十月九日該裁決書の謄本の送達を受けた。よつて原告はこゝに請求趣旨通りの判決を求めるため本訴に及んだと述べ、被告の主張事実中、最下位当選者と次点者との得票差が七票であることは争わないと述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中愛媛県北宇和郡北灘村議会議員選挙が昭和二十六年四月二十三日執行されたこと、被告が同年九月二日訴願棄却の裁決を為したこと、宮本イシ、松下厳が選挙権を有しなかつたこと、並びに赤松伝蔵、赤松キクエ、扇野ミチエが選挙権を有していたことはいずれも争わないが、その余の事実はすべて否認する。即ち、投票管理者は昭和二十五年十二月二十日確定の基本選挙人名簿及び昭和二十六年四月二十一日確定の補充選挙人名簿と対照し選挙人名簿に登載されている者に投票せしめたものであるが、後日調査の結果、宮本イシは従来北灘村所在の者に縁付いて同村に居住していたところ、昭和十五年十一月実家なる岩松町に帰つていたもの、松下厳は同年十月二十四日同町兵頭シズ子と結婚(届出は昭和二十六年一月十二日)して転任してきたがその届出がなかつたもの又赤松伝蔵、赤松キクエ扇野ミチエはその居所を転々としていたため、北灘村に住居がない者として選挙人名簿に登載されていなかつたことが判明したものである。
しかも以上はすべて個々の投票の効力に関する問題であつて選挙自体の効力に影響を及ぼすものではない。殊に本件選挙の最下位当選者と次点者との得票差は七票であつたのであるから、原告主張のような選挙無効の原因たるべき事由に当らないと述べた。(立証省略)
三、理 由
愛媛県北宇和郡北灘村議会議員選挙が昭和二十六年四月二十三日執行されたことは、当事者間に争なく、宮本イシ、松下厳が選挙権のないこと(原告の小笠原美代子に選挙権がないという主張事実については立証がない)並びに赤松伝蔵、赤松キクエ、扇野ミチエが選挙権を有していたことは被告の認めるところである。そして原告主張の第一(一)のうち選挙権のない宮本イシ、松下厳に投票を許したとしても、又第一(二)の選挙権のある赤松伝蔵、赤松キクエ、扇野ミチエの投票を拒否したとしても、右の事実は結局いずれも個々の投票についての効力を争う当選訴訟の原因となるのであつて、原告主張の如く選挙の規定に違反する等選挙訴訟の原因となるものでない。第一(三)のいわゆる補助者の立会なくして代理投票を為さしめたという点については、原告本人の供述中には原告の主張に副うような部分もあるけれども、当裁判所はこれを措信せず、他に該事実を認むべき証拠はない。
次に原告主張の第二事実については、原告提出援用にかゝる全立証によるもこれを認めるに足らない。却つて証人清家義春の証言によれば、原告主張のような山口肇が第一投票所においてその主張する如き選挙人に対し投票上の指図をする等その自由意思に圧迫を加えた等の所為がなかつたことが認められる。
さらに第三事実について考えるに、証人三好喜久松並びに原告本人の供述中には原告主張に符合するようなふしもあるけれども、同人の署名に争なくその他の部分も証人安岡文雄の証言によつてその成立を認め得る乙第一号証並びに右証人安岡文雄の証言に照し、これを措信せず却つて証人山田安夫、山口優、武田富雄、松本嘉久馬、武田銀松並びに右安岡文雄の各証言によれば、原告主張の第二投票所において選挙当日投票管理者が三好喜久松を選任して代理投票させた事実を認めることができるけれども、同人がその際原告主張のように選挙人に投票上の指図をし投票記載場所に近寄つてその投票記載を監視し、且つその記載した投票用紙を点検する等選挙人の投票に対する自由意思に圧迫を加えたことのないことが認められるから、ごうも選挙の自由公正を害した事実を認めることができない。それ故その存在の前提に立つ選挙無効を求める原告の本訴請求は失当として排斥を免れない。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 前田寛 近藤健蔵 萩原敏一)